建築家 松島潤平さんによるfocus core,create different

100% Pencil Drawing

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1901年に製図用鉛筆として商品化され、100年以上に渡り無数の図面を描いてきたSTEADTLER社の「マルス ルモグラフ製図用高級鉛筆」を、「マルス ルモグラフ製図用高級鉛筆」で描いて図面化し、“描くもの” “描かれるもの”の関係をひっくり返してみる。

鉛筆は杉の木、黒鉛、粘土でできている。芯が紙との摩擦で細かい粒子になり、紙の繊維にこびりつくことで筆記される。つまり書かれた字や絵は、鉛筆芯が分解して形状を変えただけものである。ここでさらに製図用紙を杉を薄くスライスした紙にすると、杉の木、黒鉛、粘土だけで作られた純度100%の鉛筆画ができあがる。鉛筆という「物体」について描かれた図面であると同時に、化学的な「物質」として見ても、描いた鉛筆とまったく等しいものとなる。

鉛筆を使って鉛筆の“かたち”と“成り立ち”を描くことで、何が鉛筆を「えんぴつ」足らしめているかを知り、[ 物体 / 物質 ]また[ 物理 / 物語 ]の両面からえんぴつの本質について考える作品。

Pencil Earth

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思えば鉛筆を構成する木・黒鉛・粘土はすべて土由来のもの。つまり、鉛筆は地球を削ってできている。その鉛筆をさらに削って、地球をどんどん細かくして、地球に還していく感覚を改めて感じたい。

建築家 松島潤平さんが捉える「えんぴつ」の本質

鉛筆とは、黒鉛(炭素鉱物)と粘土を混ぜて焼き上げた芯を木軸でくるんだ筆記用具のこと。だから「鉛筆」と呼ばれていながら、実際のところは「鉛の筆」でもなんでもありません。黒鉛という物質の化学的な裏付けが追いつかないうちに、あまりにも役に立ち過ぎて、あっという間に人間社会に普及してしまったわけです。つまり「鉛筆」という名称はその“物理的本質”をまったく表現できていないのですが、由来を置き去りにして誤称が猛烈なスピードで世界中*に浸透してしまうほど、「人間という社会動物にとって極めて相性が良い道具」という“物語的本質”が逆説的に表現されています。そんなねじれた呼び名に、「えんぴつ」という存在の強さと魅力を感じています。

  • *英語でも鉛筆芯のことは「lead(鉛)」と呼ぶ
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建築家とえんぴつ

CAD(コンピュータ製図)が主流となった現在でも、アイデアスケッチといった思考作業においては、まだまだ設計士と鉛筆には切っても切れない縁があります。特にSTEADTLER社の「マルス ルモグラフ製図用高級鉛筆」は、描くこと・作ることへのモチベーションを高めてくれる素晴らしき相棒。幾多の建築家たちがこの鉛筆でめくるめくイメージを描き、数々の空間を立ち上げてきたことを思うと、ただ握っているだけで、偉大な先人をはじめ世界中の建築家とつながっているようにすら感じてきます。
いま手にある鉛筆は削れてやがてなくなってしまいますが、すべてのえんぴつは、きっと時空を超えて一本につながっているんじゃないでしょうか。

建築家としての想い

「えんぴつ」と聞けば、誰もがそのフォルムを頭に思い浮かべることができます。横から見れば三角形と四角形、立体的に見れば円錐状の先端を持つ六角柱。基本的な幾何学の集合体であるせいか、特別な親しみを持った形です。
しかしその化学組成や寸法を正確に把握している人はどれくらいいるでしょうか?黒鉛・粘土の芯、インセンスシダーの木軸。世界的に決められた約175mmという長さ、約7.5mmの太さ、直径2mmの芯。それらの情報を知るだけで、この構成、この形状に定着するまでの果てしない物語が見えるようです。
物には、形(物体的側面)と性質(物質的側面)といった“物理”的要素に加えて、必ず成り立ちや経験情報といった“物語”的要素が宿っています。建築家とは、物にまつわる“物理”と“物語”両方への理解を深め、司ることのできる人間だと考えています。

皆さんへメッセージ

何か行動を起こすとき、一番大切なことは「検算(ためし算)」だと思っています。世に出す前に、自分のなかで「本当にそうなのか?」と自分に問い続けること。何気なく使っている言葉や思考に対して、逆説を探して反論し続けること。それは物事を真正面に受け止めない、斜に構えたシニカルな態度に見えるかもしれませんが、慎重な検算を耐え抜いて表出されるものは、とても誠実で、知的な歓びに溢れた、人の心を掴む強いものとなります。人だけでなく、物ひとつ・言葉ひとつに対しても、意識から流さず、素直に受け止めない天邪鬼な態度を持ち続けてください。一人ひとりの果てしない逆説の積み重ねこそが、思いやりと楽しさのある社会を生むと信じています。

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試考作互 No.001
カテゴリー:建築

試考作互 No.002
カテゴリー:話し家

試考作互 No.003
カテゴリー:プロダクトデザイン

試考作互 No.004
カテゴリー:鉛筆メーカー

試考作互 No.005
カテゴリー:料理

試考作互 No.006
カテゴリー:芸術